「座る場所がない街」にベンチを置く
街を歩いていて、少し腰を下ろしてひと息つける場所がどれだけあるでしょうか。日本ではベンチが浮浪者対策やテロ対策などによって危険なものとして扱われ、街から排除されてきたという問題意識から、株式会社グランドレベルは2017年9月1日に「JAPAN / TOKYO BENCH PROJECT」を自主プロジェクトとして立ち上げました。日常の街や「まちの1階」に人が居る光景をつくることを掲げ、日本中にベンチを増やす取り組みを進めています。
「ひとつもない通り」から始まった社会実験
最初の取り組みとなったのは、2017年10月に開催された「神田ベンチプロジェクト」でした。「神田警察通り賑わい社会実験2017」の一環として、公式サイトで「ベンチがひとつもない」と記されていた神田の不動尊通りの歩道と、神田錦町2丁目の公開空地に、株式会社コトブキの協力を得て合計20台のベンチを設置しました。いきなり恒久的な工事を行うのではなく、まずは期間限定の社会実験としてベンチを出現させ、街の風景を一時的に書き換えるアプローチをとっています。

実験から恒常設置へつなげる
このプロジェクトの特徴は、一時的なイベントで終わらせず、その後の恒常設置へとつなげる流れを各地で設計している点にあります。たとえば2019年秋、京橋の東京スクエアガーデン公開空地に20台のベンチと通常の2倍サイズのベンチを設置する実験を行いました。その後、イトーキと共同デザインしたベンチが、2021年3月に同ビル前へ恒常設置されています。同様に田町でも、2021年春の社会実験を経て、同年9月から田町ビル前でベンチの恒常設置が行われました。

企業や地域との協働で広がる仕掛け
ベンチの導入形態も多様化しています。丸の内仲通りや大手町の公開空地では、フクビ化学工業と共同開発した人工木材の「ルーシーベンチ」を設置する社会実験を行いました。また座間駅前では、クラウドファンディングを経て寄附者とともにテープカットを行い、ベンチが設置されました。笠間市駅前や福井などでも社会実験やワークショップが展開されており、ビル事業者や鉄道会社、行政、市民を巻き込む協働構造そのものがプロジェクトの推進力となっています。

会話を迫らず、佇む権利を置く
プロジェクトが目指すのは、無理に交流や会話を促すことではありません。誰にでも用途がわかる「座る場所」を日常の動線上に置くことで、街にとどまる理由を作り出しています。主催者は今後10年で東京に1万脚のベンチ設置を目指す方針を掲げており、ビルの公開空地や軒先の提供だけでなく、市民が玄関先にベンチを置くことやDIYベンチの展開など、街の1階に関わる多様な選択肢を呼びかけています。
常設化へのハードルと検証の視点
一方で、ベンチを置くことによる周辺への影響や賑わいの変化について、客観的な数値データが公式に広く共有されているわけではありません。管理や清掃の責任、周辺事業者や住民との合意形成など、仮設から常設へと移行するハードルは場所ごとに異なります。単に什器を置くだけでなく、その場所を誰がどのように見守り続けるのかという運用の仕組みが常に問われています。
街の1階や公開空地、建物の軒先にベンチを置くという試みは、対話のための環境を「言葉」ではなく「物体」から整える実験として捉え直せます。交流イベントを開いて参加者を募るのではなく、まずは誰でも腰を下ろせる1脚のベンチを街に向けて置いてみる。話しかけることを目的にせず、ただそこに居てよい物理的な余白を用意したとき、道行く人は通り過ぎる通行人から、同じ空間を共有する隣人へと変わるきっかけを得られるのかもしれません。
KamoTalkの視点
ここから先は出典の事実ではなく、KamoTalkによる分析です。
- Permission話しかけてもいいと感じられる仕組み
- 公式サイトは「人々が安心して街に佇める環境」をつくることを掲げている。神田のように「ベンチがひとつもない」とされた歩道や公開空地にベンチを置くことは、物理的に「そこに居てよい」状態をつくる行為と読める。ただし、利用者がどう受け止めたかを示す記述は資料にない。
- Match誰と話すかを決める仕組み
- 見知らぬ人同士を引き合わせる仕組み(マッチング、席の割り当て、ホスト役など)は、資料上このプロジェクトには見当たらない。設計の焦点は「佇める場所」の設置であり、人と人を結ぶことではない。
- Reasonその人と話す理由を与える仕組み
- ベンチは「座る・休む」という誰にでもわかる用途を持つので、街に留まる理由を与える装置といえる。ただし、それが他者と居合わせたり会話したりする名分として機能したかは、資料に記述がない。
- Prompt最初の一言・話題を与える仕組み
- 会話のきっかけとなる問いかけや仕掛けは、資料上確認できない。目立つ要素として、豊洲の「赤いベンチ」や京橋の「通常の2倍サイズのベンチ」といった視覚的に特徴のある什器が記載されている程度。
- Place会話しやすい物理・デジタル環境
- 場所の選び方がこのプロジェクトの中核である。ビルの公開空地(東京スクエアガーデン、読売新聞ビル、神田錦町)、商店街の歩道(不動尊通り)、オフィス街の通り(丸の内仲通り)、駅前(座間、笠間、豊洲、福井)など、日常の動線上にある「まちの1階」に置いている。台数や配置先も具体的に記録されている(例:神田20、京橋20+2倍サイズ1、丸の内9+大手町6)。
- Next会話後の関係につなげる仕組み
- 期間限定の社会実験を行い、その後に恒常設置へ移る流れが複数地域で確認できる(京橋、田町、座間、笠間)。座間ではクラウドファンディングと寄附者参加のテープカットを経て設置された。企業ブランド化(FANDALINE)による製品化や、市民のDIYベンチ・軒先ベンチへの展開提案もある。「次」につなげる構造が明示的に設計されている。
出典
- ジャパン・トーキョーベンチプロジェクト(新しいタブで開きます) — JAPAN BENCH / TOKYO BENCH PROJECT一次情報2026年9月27日 閲覧
- TOKYO BENCH PROJECT 2021への参画について(新しいタブで開きます) — フクビ化学工業株式会社一次情報2026年9月27日 閲覧
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