子どもが生まれたとき、親と祖父母の間で育児の進め方を巡って言葉に詰まった経験はないでしょうか。第一生命経済研究所の2024年調査では、孫の育て方の方針が子ども(孫の親)と合わないと感じる祖父母が31.5%だったと報告されています。良かれと思った助言が意図せずぎくしゃくした空気を作ってしまう状況は、身近な家族だからこそ起こりやすい日常の摩擦です。

行政が届ける無料のハンドブック
こうした世代間の育児観の違いに向き合うツールとして作られたのが、埼玉県さいたま市の「さいたま市祖父母手帳」です。平成27年(2015年)12月に初版が発行され、令和8年(2026年)3月には第11版が発行されました。市内の区役所や子育て支援窓口のほか、老人福祉センターなどで無料配布され、電子書籍版やPDF版も用意されています。

「昔と今」を並べて常識の変化を可視化する
手帳の大きな特徴は、子育ての常識が時代によってどう移り変わったかを具体的に並べて見せている点です。だっこや授乳間隔、卒乳、うつぶせ寝、離乳食、むし歯予防のための食器共有、おむつはずれ、日光浴、歩行器といった日常の項目について、昔と今の考え方の違いが整理されています。
本音のアンケートと直接書き込める欄
さらに誌面では、市のアンケート調査をもとに祖父母側・親側それぞれの「嬉しかったこと」や「気遣いがほしかったこと」の回答例が年代付きで紹介されています。お互いがどんな配慮を求め、何に感謝しているかを客観的に知る手がかりになるだけでなく、双方が感謝の言葉などを直接書き込める専用の欄も設けられています。
広がる取り組みと残された問い
さいたま市は、祖父母世代に今の子育ての常識を、親世代に昔の子育ての常識を理解してもらい、世代間ギャップを埋めて相互のコミュニケーションを円滑にする目的で作成したと説明しています。北海道でも2017年2月に孫育てガイドブック『まごナビ!』を作成するなど、自治体による同様の試みは各地に存在します。
家族のような近い関係ほど、「そのやり方は違う」と直接指摘するのは角が立ちやすいものです。『さいたま市祖父母手帳』の面白さは、個人の意見のぶつかり合いになりがちな育児観の違いを、「時代による常識の変化」として公的な冊子の形に落とし込んだ点にあります。この仕組みをキャンパスや職場のコミュニケーションに応用するなら、世代間の働き方や連絡ツールの使い方のズレを、個人の好き嫌いではなく「時代の推移」として可視化した1枚の比較シートを作ってみるのも一手かもしれません。言葉で説得する代わりに、客観的な共通の参照点を間に置くことで、お互いの摩擦を少し和らげられないでしょうか。
KamoTalkの視点
ここから先は出典の事実ではなく、KamoTalkによる分析です。
- Permission話しかけてもいいと感じられる仕組み
- 『昔と今で常識が変わった』ことを市が発行する冊子として示すため、どちらかが間違っていると個人が言う形を避けられる可能性がある。ただしこれは研究者の解釈で、市はこの効果を述べていない。
- Match誰と話すかを決める仕組み
- 相手は同じ家族の祖父母と親に限定されており、誰と話すかを選ぶ仕組みではない。
- Reasonその人と話す理由を与える仕組み
- 孫の誕生・育児への関わりが、今の子育てについて話す理由になる。配布窓口に子育て支援・老人福祉センターの両方がある。
- Prompt最初の一言・話題を与える仕組み
- 強い軸。だっこ・授乳・日光浴など具体的な項目ごとに昔と今が並び、『嬉しかったこと/気遣いがほしかったこと』の実例と、互いに感謝などを書き込む欄が話の入口として用意されている。
- Place会話しやすい物理・デジタル環境
- 話す場所・時間の設計はない。冊子は窓口配布・電子書籍・PDFで手に入る。
- Next会話後の関係につなげる仕組み
- 『ここを任せて』『これを手伝って』とお互いの役割を伝えるよう勧め、地域の子育て支援(講座、ファミリー・サポート・センター)への関連リンクがある。家族内の会話の継続の仕組みは書き込み欄程度。
出典
- 孫育てを応援!「祖父母手帳」をご利用ください(新しいタブで開きます) — さいたま市 子ども未来局 子ども育成部 子育て支援課一次情報2026年9月28日 閲覧
- さいたま市祖父母手帳(R7sohubotecho.pdf)(新しいタブで開きます) — さいたま市 子ども未来局 子ども育成部 子育て支援課(編集・デザイン: 株式会社東京法規出版)一次情報2026年9月28日 閲覧
- おじいちゃん、おばあちゃんのための孫育てガイド(まごナビ!)のご案内(新しいタブで開きます) — 北海道 保健福祉部 子ども政策局一次情報2026年9月28日 閲覧
- 全国の祖父母手帳(新しいタブで開きます) — NPO法人 孫育て・ニッポン2026年9月28日 閲覧
- 親世代と祖父母世代の育児観ギャップを乗り越える(新しいタブで開きます) — 第一生命経済研究所(福澤涼子)2026年9月28日 閲覧
